スポーツパフォーマンスに関する研究や実践が注目されています。計測技術の発達により、選手が持つ課題や強みを精確に把握し、適切なトレーニングを行うことができるようになりました。スポーツパフォーマンスを数値化することで、効果的なトレーニングが行えるようになります。
ここではスポーツパフォーマンスという概念の定義や注目されるに至った経緯、研究現場で行われている最新の発表などを確認していきましょう。
スポーツパフォーマンスとは
「パフォーマンス」という言葉を理解するために欠かせない2つの要素があります。
プロセスとプログレス
1つは過程を意味する「プロセス」、もう1つは進行状況を意味する「プログレス」です。プロセスはどのようなルートをたどるべきかを示す言葉で、プログレスは実際にどのようなルートをたどっているかを示す言葉です。
そしてプロセスとプログレスを経て、結果にたどり着きます。つまりプロセスは身体の動かし方、プログレスは実際にどのように身体が動いているか、結果とはスポーツにおけるスコアであり、勝ち負けを意味するものです。
競技に勝つための”要件”
「スポーツパフォーマンス」を一言で示すなら、”競技に勝つための要件”です。個々人にとって理想とされる型を定め、その型をなぞるように動き、その結果として導き出される試合の勝ち負けがあります。ここでの勝ち負けとは、対戦競技としての勝敗だけでなく、目標スコアを出せるかどうかといった意味を含む大きな意味として捉えてください。どのようにスポーツを実践すべきか理解し、実際にすべき通りに身体が動いているか確認し、より高いスコアを目指すことがスポーツパフォーマンスです。
スポーツパフォーマンスの概念が生まれた背景
スポーツパフォーマンスの起源を明確にまとめた資料は存在していませんが、測定機器を開発する技術の発達との関係性が高いと言えます。
スポーツパフォーマンスの数値化が可能になり、スポーツ選手ごとに最適な課題や強みの精確な把握がしやすくなりました。計測機器の発達に関連して、従来よりも科学的なスポーツトレーニングが可能となっています。科学的なアプローチとなるスポーツパフォーマンスという概念に注目が集まり、より効果的かつ効率的なトレーニングを重視するアスリートやトレーナーが増加する傾向となったと考えられるでしょう。
海外でのスポーツパフォーマンス研究の現状
海外では、スポーツパフォーマンスに関する研究が盛んに行われています。発表から時間が経過して結果が覆される場合もありますが、ここでは現時点で有効に活用できそうなものを確認しておきましょう。
英国コンドリー大学の研究報告
英国コンドリー大学は38人の男女を対象に、コーヒー摂取とスポーツパフォーマンスの相関関係を調査する実験を行いました。男女ともにコーヒーに含まれるカフェインが影響し、自転車漕ぎのスピードが向上することが確認されています。
この実験でわかったことは、運動を開始する12時間前までコーヒー摂取を止め、運動を開始する前にカフェイン入りのコーヒーを飲むことで、自転車を漕ぐパフォーマンスが向上するということです。コーヒーを飲むグループとは別にプラセボとして水を飲むグループ及び何も飲まないグループが用意され、結果を比較しています。その結果、コーヒーを飲むグループは走行タイムを縮めることができたのです。
実施したスポーツは5kmサイクリングトライアルで、コーヒーを飲んだグループの男性と女性は、プラセボのグループよりもそれぞれ9秒と6秒、タイムを縮めることができたと発表されました。他の競技であっても、カフェインを適切なタイミングで摂取することで、スポーツパフォーマンスの向上が期待できるでしょう。
〈参照〉コーヒーは男女のスポーツパフォーマンスの向上に関連?/LINK DIET
欧米でのグルテンフリー
グルテンとスポーツパフォーマンスの関係について調査したある研究では、910人のうちの41%のアスリートがグルテンフリー食を実施しています。その結果、81%の選手が、腹部膨満、下痢、疲労といった症状が改善したことが報告されました。
グルテンフリー食とは、グルテンの摂取を避ける食事療法のことです。グルテンはタンパク質の一種で、小麦や大麦、ライ麦などに含まれています。欧米を中心に日本でも、グルテンフリー食に注目が集まっています。スポーツ界では、プロテニス選手のノバク・ジョコビッチ氏が実践した食事療法として話題を呼びました。
〈参照〉欧米アスリートの4割が実践 話題の「グルテンフリー食」の気になる効果と現状/THE ANSWER
日本でのスポーツパフォーマンス研究の現状
日本においてもスポーツパフォーマンスの研究は実施されています。日本国内の大学で行われているいくつかの報告内容を確認しておきましょう。
筑波大学スポーツパフォーマンス研究開発リサーチユニットの研究
筑波大学には、スポーツパフォーマンス研究開発リサーチユニットがあります。「研究開発により1%のパフォーマンス向上に貢献」と主張しており、競技団体に所属するトップアスリートやコーチと連携し、研究を行っています。
1%と聞くと、大きな数字に聞こえないかもしれません。ですが、オリンピックなどの世界大会においては、0.01秒や1ミリの差が勝敗を決します。わずかな差の追求により、日本代表選手をメダルに近づけることをサポートする研究です。
〈参照〉筑波から全世界へ スポーツパフォーマンス研究開発リサーチユニット From Tsukuba to the World
順天堂大学スポーツ健康科学部の研究
順天堂大学には、スポーツ健康科学部があります。どのようにトレーニングを実践すれば高いパフォーマンスを発揮することができるかという視点で研究と実践が行われています。
例えば宮本直和准教授は、「軟らかくて良い筋肉」について、科学的な視点から分析し、定義を述べています。「軟らかくて良い筋肉」は言葉としてよく使われる一方で、その根拠を研究し発表した事例は知られていませんでした。そこで陸上競技の短距離走選手と長距離走選手の筋肉の硬さを調査しています。その結果、長距離走選手は「軟らかく伸び縮みしやすい筋肉」を持つ選手、短距離走選手は「硬く伸び縮みしにくい筋肉」を持つ選手のパフォーマンスが高いということが判明しました。
従来までは明確な定義づけが行われていなかったことを数値化や検証という科学的なアプローチにより研究しています。
〈参照〉アスリートが最高のパフォーマンスを けがせず発揮できるように「筋肉」を研究する元アスリートの挑戦/JUNTENDO SPORTS
まとめ
技術の発展により、スポーツパフォーマンスの分析や数値化が精確に計測できるようになりました。それにともない、従来以上にスポーツパフォーマンスの研究が盛んに行われています。
トップアスリートの世界になるほど、スポーツパフォーマンスの研究がライバル選手との差を生み出し、大きな結果として反映されます。スポーツパフォーマンスの理解を深めて、より効果的なトレーニングと実践を目指しましょう。